東京、14年。

慶應通信(経済学部)に入学、卒業までの軌跡を綴っています。

こうして店は潰れた: 地域土着スーパー「やまと」の教訓

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今年もあと4日で終りますね。2019年、思い起こせばいろいろなことがありました。自分の中で一番の出来事は転職でしょうか。転職後は働き詰めで勉強をする時間もなく、また本を読む時間もなく…。ただ労働時間調整で27日が急遽休みとなり、一日早い年末年始のお休み突入でずっと読みたかった本を手にとりました。

 

山梨県にある地域土着(超密着という意味)スーパーであるやまとが倒産するまでの3代目社長の奮闘を綴った一冊です。どの地方でも直面している大手スーパーの進出による地方スーパーの逼迫した実態がリアルに感じられます。
事実、自分の周りを見てもたとえば実家の岡山ではマルナカがイオンに買収されたり、前職でよく出張に行っていた長野南部ではニシザワ(ベルシャイン)が苦戦していたり、山口の大学時代はアルク一択だったけど今はどうなっているのかな…?じいちゃん家の近くにあるサンプラザはもうかなり厳しそう。

地方スーパーの将来性は外部環境への対応と創意工夫による強み形成にかかっています。リソースでは大手スーパーにかなわない、そんな中でやまとは顧客満足度の向上と地域貢献の同時達成を叶えました。これはひとえに社長の手腕、意思決定が早くアイデアベースで即実行できるのは中小企業の強みですよね。だからこそ社長の能力が問われるわけですが。

一方で、悩ましいのが「頼まれたら断らない」「本業以外で利益を得ない」という経営スタイル…。いや、すばらしいですが営利企業としてはそれをやってしまったら事業がそりゃ成り立たないですよねー。フリーキャッシュが潤沢ならまだ分かるけど…逼迫しているのに。いろんなことに手を出すとその分資源が分散してしまうし、そこで利益を得ないのならなぜそこに資源を投下するのか…。「選択と集中」が基本ですよね。地元愛が強いのはわかるけど、サービスが行政に寄りすぎてます。中小企業とはいえ多くの従業員を抱え、その従業員の家族の家計を支えていることを考えると、あえて利益を生む機会を反故にするというTOPの意思決定はないとも考えてしまう。

こんなことをいうと身もふたもないですが、小売業はどうしても付加価値が生み出しにくい…。だから自身の転職活動でも小売業はかなり優先順位を落としてました。なぜなら付加価値の高さは給与額の高さに比例しますからね。スタバのように強いストアブランドを有していても、他の業界に比べると高いとはいえません。
だからこそ、お金ではない従業員を引きつける強い企業愛顧の形成が必要です。それは社長の人柄はもちろん、会社の経営方針や社会貢献に表れます。たしかにやまとは結果として事業を継続することはできませんでした。ただ、どんな状況でも経営のスタイルは変えなかった、良くも悪くも。
芯の通った経営者の生き様には心が震える思いです。「こういう会社こそ続いてほしい」矛盾する思いが募りますが、こういう会社、経営者の力になれるよう自身の研鑽を積んでいきたいと思います。

 

こうして店は潰れた: 地域土着スーパー「やまと」の教訓
小林 久
商業界
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追記(2020/09/28)
出版社が潰れたということで、内容をさらに充実した上で「続・こうして店は潰れた」として再販しているとのことです。